page151: 明治維新の武士と令和時代のホワイトカラー

自分のマンションのエレベーターには、その日の日付に紐づく歴史を一行程度で教えてくれる液晶があって、地味に好きだったりする。
昨日、8月23日は白虎隊が自刃した日だとその液晶は教えてくれた。

歴史を勉強するメリットがあるとしたら、時代には流れがあることを理解できることではないだろうか。

明治維新は間違いなく日本史に永遠に残るグレート・リセットだと思う。約260年も続いた江戸時代はあっさりと終了した。というのが、教科書の説明だが、旧既得権の抵抗勢力が「はい、わかりました」とあっさり納得するはずもない。

前出の白虎隊をはじめとして、戊辰戦争では旧幕府側と新政府側の間で激しい戦いが続いたことは、歴史好きでなくても日本人であれば誰でも知っているだろう。その結末がどうなったかは、言うまでもない。

武士という職業、身分が消えた

明治維新のインパクトは、単に政権が徳川家から明治政府へ交代したことだけではない。
社会の仕組みそのものが変わってしまったことだ。特に大変だったのは武士だろう。江戸時代まで武士は社会の支配階級だった。藩に所属し、禄をもらい、刀を差し、武士という身分そのものが社会的な信用でもあった。

ところが、明治維新によって藩がなくなり、やがて禄もなくなり、帯刀も禁止される。昨日まで社会のエリートだった武士が、ある日突然、「あなたの職業はもうありません」と宣告されたようなものだ。青天の霹靂どころか、馬鹿も休み休み言えという冗談のような話だ。

失うのは仕事だけではない。所属、収入、肩書き、社会的地位、そして「自分は何者なのか」というアイデンティティまで失う。当然、新しい時代に適応できなかった武士も大勢いただろう。しかし、全員が時代とともに表舞台から消えていったわけではない。

丁髷と刀を捨てて電信技師になった白虎隊士

自分は知らなかったけど、冒頭の白虎隊にも、その象徴のような人物がいたそうだ。
飯沼貞吉である。
飯盛山で自刃した白虎隊士の中で生き残った人物として知られているが、その後の人生が面白い。彼は明治という新しい時代を生き、やがて電信技術者になったそうだ。武士から電信技師への転職。とんでもないキャリアチェンジだと思う。

リスキリングなどのような軽々しい言葉で表されるレベルではない。刀を持って戦うことを教育されてきた若者が、社会そのものが変わってしまったため、刀を捨て、当時最先端だった通信技術を身につける。文明開花の当時では、電信はインターネットやAIのようなものだったと言っても、大げさではないだろう。飯沼貞吉の生き方には賛否(というより好き嫌い)はあるだろうが、藩や武士という身分がなくなったからといって、奇跡的に救われた命を無駄にせず、生き延びた。

捨てるものと、持っていくもの

ここが重要なのだと思う。
時代が変わったからといって、それまで身につけたものを全部否定したり、捨てたりする必要はない。武士として受けた教育、読み書き、規律、学習する力など、新しい時代でも使えるものはそのまま持っていけばいい。
一方で、丁髷や刀のように、新しい時代では意味を失ったものには執着しない。
そして、新しく必要になった電信技術を学ぶ。

つまり、使えるものは持っていく。使えなくなったものは潔く捨てる。新しく必要なものは学ぶ。変化の激しい時代を生き抜く方法は、案外これだけなのかもしれない。

令和時代のホワイトカラーは明治維新の武士なのか

そして現在の日本を見ていると、どうも幕末と重なって見えることがある。
今のホワイトカラーは、幕末の武士に似ているのではないだろうか。
昭和から平成にかけて、日本社会のエリートコースはかなり明確だった。
勉強して、いい大学へ入り、いい会社へ入り、ホワイトカラーとして働き、社内で出世していく。「会社」という「藩」や「城」に所属して、毎月「給料」という「禄」をもらう。会社名や役職は、その人の社会的信用であり、アイデンティティでもあった。
もちろん、武士と会社員を同一視するのは乱暴だが、構造にはどこか似たところがある。
そして、その平和な世界へAIという黒船が不気味にやってきた。

AIという不気味な黒船

AIが本格的に登場してから、まだ数年しか経っていない。
これから社会がどうなるのかなど、自分にはまったくわからない。
プログラマー、デザイナー、ライター、事務、会計、法務、コンサルタント。
これまで高度な教育が必要だと思われていた仕事に、AIが猛烈な勢いで入り始めている。

だからといって、ホワイトカラーがすべて消滅するとは思わない。
武士という身分が廃止されたからといって、武士だった人間が全員路頭に迷ったわけではないのと同じだ。問題なのは「ホワイトカラーという身分」を頑なに守ることではなく、自分がこれまで蓄積してきた職業資産の中から、次の新しい時代でも使えるものを選び出し、アップデートすることではないだろうか。

そんなことを考えながら、自宅の階でエレベーターを降りる数秒間を、明治から令和のタイムスリップで楽しんだ。

created: 2026-08-24 19:36:02